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序章~第1話 かがやき
序章
「すみません。ベンチに座りたいのですが、どこにありますでしょうか?」
「ああ、こっちだよ。おじいさん大丈夫?はい、ここだよ」
「ありがとうございます」
「ああ、年だけはとりたくないな」
「そうだな、見ろよ。あのよぼよぼした歩き方。身なりはしっかりしているけど」
「多分、認知症とかもあるんじゃないか」
「そうだな」
第1話 かがやき
時は太平洋戦争の頃に遡る。
「美鈴さん、小遣いをためて自転車を買ったよ」
「そうなんですね、明さん。高かったのではないですか」
「ああ、しばらくは小遣いは無しさ。後ろに乗ってみない」
「いいのですか、是非」
美鈴は驚いた表情で明に答えた。
明は一人暮らしで近所に住む親戚の援助を受けながら生活をしてた。
幼い頃に家が火事になり、父親と母親は亡くなり奇跡的に明だけ助かったのだった。
そして、近所の親戚の家から生活の援助を受けており、一人で生活していた。
毎朝、郵便局の配達のアルバイトをしながら、お金をためてようやく自転車を購入することができたのだ。明はうれしくて、うれしくてたまらなかった。
それは理由があったからだった。明は好きな美鈴と一緒に自転車に乗りたかった。たった、それだけの理由であった。
美鈴もうれしくてたまらなかった。互いは想い合っていたのだから。
買ったばかりの自転車は輝きを放ち二人を待っていた。
「大丈夫、ちゃんと乗れる。ほら」
明は昨日、自転車に乗る練習をしばらくしたばかりだったので、二人はぎこちなく自転車に乗ったのだった。ようやく、美鈴を自転車の後ろに乗せることができた。
「ありがとうございます」
「いいよ」
美鈴の声は弾んでいた。
「美鈴さんと一度、一緒に乗りたかったんだ」
「明さん身長も高いですしハンサムですから。あまり女性と仲良くしないでください」
「美鈴さんこそ、きれいだから。今日は今からどうする?」
「どこか連れて行っていってください」
「いいよ、どこに行く。そうですね、海を見に行きたいです」
「いいね、そうしよう」
明はぎこちなく自転車をこぎだした。
「よいしょ」
「よいしょ」
「キャ、揺れます」
「大丈夫だよ。着いたよ、ほら」
透き通る波音は微笑の音をたてながら若き二人を待っていた。
「白い波がきれいだね」
「本当にそうですね」
「まるで僕達を歓迎しているみたいだね。浜辺を走ってみない」
「はい」
浜辺には輝く二人がいた。
「そら」
「明さん足が速いですね」
「美鈴さんが遅いからだよ。美鈴さんといっしょにいると不思議な気持ちになるよ」
「海と美鈴さんが溶け込んで一緒になって見えるよ。美鈴さん綺麗ですね」
「恥ずかしいことを言わないでください。もう帰ります」
「じゃあ、そんなこと言わないで座っていっしょに話そう」
「はい」
「美鈴さんと出会えてよかった。いつまでもそばにいてほしい」
時もそれを願っていた。
「本当ですか?」
「ああ」
美鈴は真剣な表情で明に告げた。
「さっきも言いましたけど明さんハンサムだから、他の女性と仲良くしないでくださいね。怒りますよ」
「もちろんだよ」
二人は仲がよかったが互いに告白はしていなかったのだ。
「美鈴さんは好きな人はいますか?」
「そんな事、聞かないでください。わかっていて聞いているのですか」
「どうだろう」
「ハハハハ」
浜辺に明の幸せな笑い声が恥ずかし気に響いた。
「もう、からかわないでください。好きな人がいればこのように、明さんの自転車に乗ることはありません」
「ありがとう」
「いえ……」
「美鈴さん」
明は突然に美鈴の手を握りしめた。
「キャ」
「初めて手をつないだね」
「そんな恥ずかしいことをしないでください」
美鈴はそう言ったものの、うれしかったのだった。
「幸せでたまらないんだ」
「明さんの手は温かい」
「そうかな?」
「はい」
明はあることを思いついた。
「今度は自転車を美鈴さんが乗ってみる?」
「わあ、いいですか」
「僕が後ろに乗るから」
「ええ、重くて運転が出来ないかもしれません」
「試しに乗ってみようよ」
「はい」
美鈴はやっとの想いで自転車をこぎだした。
「ほら、左右に揺れているよ」
「きゃあ。もう、明さんが重いから」
「そうかな、美鈴さんの方が重いと思うよ」
「怒りますよ」
「ハハハ」
「こわいな」
二人を乗せた自転車はゆらゆら揺れながら倒れてしまったのである。
明は美鈴に怪我がないか心配だった。
「美鈴さん、大丈夫?」
「はい」
「よかった」
「そこに座ろうか」
「はい」
二人は恥ずかしかったのか沈黙がしばらく続いた。ようやく、明が話しかけた。
「美鈴さんは得意な科目は何?」
「う~ん数学かな」
「僕は国語だな」
美鈴は微笑みながら答えた。
「わかります、時々詩人みたいなこと言うから」
「カッコつけですよ」
明も負けじと言い返す。
「そうかな、さっき美鈴さんが言ったように詩人と言ってほしいな。かっこつけはよしてほしいな」
「いえ、かっこつけです」
明は恥ずかしかったが勇気をだして、ある行動にでたのだ。
「それより、ほら両手を、つなごうか」
「今度は両手ですか」
美鈴は不思議そうに言うと明は両手を繋いだまま浜辺を回った。
「ほら」
「キャ」
「回らないでください。目が回るじゃないですか」
「え」
明は大胆にもある行動にでたのだ。
「ごめんね抱きしめてしまった」
「初めてです。突然そんな事をしないでください」
「ドキドキした?」
「はい、じゃあ、今度は私から」
美鈴も明に抱きついたのだ。
「大胆だなあ」
「明さんが先じゃないですか。明さんが悪いです」
「じゃあ・・・」
「だめです」
………
「恥ずかしかったかな」
「もう帰ります」
「そんなに嫌だった?」
「明さんの意地悪、男性の人と口づけをするのは初めてでした」
「一緒にに帰ろう。また、僕が運転するからしっかりしがみついてね」
「はい」
「明さん今日のことは忘れません」
「でも、どうせ美鈴の事は忘れるんでしょうね」
「僕も生涯、忘れないよ」
「本当ですか」
「ああ」
「約束ですよ」
「うん、もう一回海に行こうか」
「はい」
「また、海に行って何をするのですか?」
「忘れ物を拾いにね」
「忘れ物は何ですか?」
「君のぬくもりさ」
二人の幸せの絶頂期であった。
「また自転車に一緒に乗ってくれる」
「はい」
吉田明 18才
藤井美鈴 18才
二人はまだ子供だった。
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