女の子が落ちていた。

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 とにかく、俺たちが相容れない性格であることは間違いなく、真鍋はそれを恐らくは認知していたが、あまり気にしていない様子だった。だが、当の俺はどうしても、彼と一緒にいる時間に疑問を抱いてしまうことがある。  初秋の陽光は、揺れる紅葉の隙間を縫って地上の風景を照らしていた。赤く色づいた樹葉に抱く印象は暖かなものだったが、それとは相反して、肌を撫でる風は素気無く冷たい。不思議な感覚だった。あべこべのものが二つ、入り混じっているのだ。冷たい風と温かい太陽に、歩く半袖と長袖。まるで夏と冬を水で溶いて混ぜたような季節。なのに、どこか秋ならではの気品を感じるのが、不思議でならなかった。  ベンチに座って冷めた缶コーヒーを飲んでいる俺と、その隣で噛り付くようにSF小説を読んでいる真鍋も、秋のような関係なのかもしれない。……そう思ってすぐに、俺は心の中で撤回した。――俺達はそんな高尚なものではない。絵具の黒に近い色を混ぜ合わせたようなものだ。俺達二人にあるのはスラム街の混沌やブラックホールの中身みたいなもので、趣とは程遠い場所に位置しているのだ。
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