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恩返し
どこから続いているのか分からないが、通りから家の駐車場まで雪の上には轍が残っている。
ふと、田貫が通りの先を見ると、街灯のもと、信楽焼のタヌキが帰っていくのが見えた。タヌキの頭にはホッカイロが乗っかっていた。
そうなのである。ポルシェは信楽焼のタヌキが引きずってきた、田貫への贈り物だった。
「あのときのタヌキか!」
「えっ、何よ?」
「そば屋のタヌキだ」
「そば屋がどうかしたの。それよりも…。リセールが良いポルシェよ。新車に見えるし。とりあえず乗ってみましょ。早く車のドアを開けて」
「えっ、ちょっと待って」
ガチャガチャ。
ガチャガチャ。
田貫は車のドアを開けようとしたが、少しも開かなかった。
「早く開けなさいよね!」
「開かない。鍵がかかっているんだ」
「はあ〜っ。乗れない車は意味がないわ!」
「そうだけど…」
田貫はどうしたものかと思案していた。妻は車の周りを歩き回っている。
「ねぇ、こっちを見て。この車ってナンバーが付いていないわ。もしかしたら、どこかの店から誰かが引っ張って来たのかもしれない」
「エンジンの音が聞こえなかったからな」
「うちの駐車場で見つけたのだから、これは私の物よね。一応、雪の上に残ったタイヤ跡は消したほうが良いのかしら。それとも雪が降り積もれば自然と消えて大丈夫?」
「そんな証拠隠滅みたいなことは…。もし盗んできた物なら、このままでは事件になってしまう。持ち主に返さないと」
「あなた、何を言ってるの。ポルシェよ。2,000〜3,000万円で売れるはず。売れた分だけ丸儲けだわ」
「ん!?」
「あなたの店でこの車を売れば良いじゃない。中古車屋でしょ?」
「ええぇ〜っ」
「当然のことよ」
「いやいや、盗難車かもしないし…。鍵もないし…」
「そのくらいは自分で何とかしなさい!」
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