シークレット・エピソード

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シークレット・エピソード

今日もおいらは江風里州庵の玄関に立ち、通りを眺めている。もっと呼び込みしないとな。皆にそばの魅力を伝えて届けたい。 『美味しいそばだよ。しかも安いよ〜』 右側からピシッとしたスーツ姿の男がやって来る。きっと外資系コンサルのやり手ビジネスマンだ。 『そこのお兄さん、そばはどうですかね? 体が温まりますよ』 「ん、出汁の利いたそばが食べたくなってきた。最近は毎日ラーメンばかりだからな。おや、ここにそば屋があるじゃないか!」 サラリーマンは見えぬ力に引っ張られるように店に入って行った。 左から容姿端麗な女性2人組が歩いて来る。たぶんプライム市場上場の大企業に務めている受付け嬢たちだ。 『美しいお姉さんたち、そばを食べませんか? ヘルシーですよ。そうだ、ランチはデザートに特製プリンが付くんです。お得ですよ』 「ねぇ、ねぇ。おそばはどう?」 「良いわね。何だか麺類を食べたい気分だわ」 女性たちは何かに導かれるように店内に進んで行った。 街ブラの撮影中の芸能人たちが近づいて来る。おそらくお笑い芸人たちと坂道グループのアイドルだ。 『江風里州庵は撮影オーケーです。味にこだわっていますよ。しかもオモシロ店主の店ときたもんだ。撮れ高も間違いなし』 「おっ、これは信楽焼のタヌキ。久しぶりに見た気がする。よしっ、ここに入ってみますか?」 「そうですね。まずは撮影許可を取って来ないと」 「じゃあ、私が行ってきます」 芸能人は店の中に消えて行った。 『テレビ放送されたら、きっと行列ができるなあ。おいらもテレビに写ったりして。それで若い子にツーショット写真を頼まれちゃったり。恥ずかしいなあ、キャハ』
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