プロローグ

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 それでも私は夫のためにせっせと朝食を作っていた。不満に思っていても、夫婦とはこんなものだと諦めていたから。幸せな結婚なんて絵空事。漫画やドラマの世界のお話なのです。 「飯は?」  おはようの挨拶もなしに夫がリビングへやって来た。開口一発がそれ? 「もうできるよ」  あと1分で鮭が焼ける。ご飯はもう炊けているし、味噌汁も完璧。 「は? 俺が起きるときには全部揃えるようにって言ってるのに、いつまで経ってもできないなんてほんとに無能すぎ」 『は?』ってなに? こっちが『は?』だよ!! 「…」  また、不満だけが溜まっていく。言い返したら100倍になって返ってくるので我慢するしか――今日もお腹の底に消化不良の憎悪だけが沈殿していく。せめて子供でもいたらまだ救われたのだろうけれども、暫くは新婚を楽しみたいという嘘を鵜呑みにして、レスになって今に至る。  建真が私の尊厳をはぎ取って心を痛めつけるこの少しずつの積み重ねが離婚理由にならないのなら、私はこの地獄を一生送らなきゃならないってことだよね。  世の中にはどのくらいの人が結婚に成功して、結婚に失敗しているのだろう。  漫画やゲームのように、完全勝利の素晴らしいシナリオを歩ませてくれたらいいのに。  やり直したい。  転生して新しい人生を歩みたい。  今流行りの転生漫画やゲームの主人公のように。  そしたら私は絶対、建真を伴侶に選ばないから――!!  
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