同じ高校へ

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同じ高校へ

「もし五十音表が球体だったら隣になれるのに」 「毎回やるの? このくだり」  進級初日の放課後、あいちゃんは座席表を教卓からひったくり、私の机に置いて指差していた。無事に同じクラスになれて喜んでいたのも束の間、教室に入った瞬間から一日中、ぷりぷり怒っている雰囲気を帯びていた。 「この風習? よくないと思う」 「そう? わたしは割と気に入ってるけど」 「そりゃ一番端の後ろなら授業中なんでもし放題だからね」  他の教科の宿題をしたり、ぼーっとしたり、絵を描いたり、と普段やっているのか具体的な事柄を挙げてくる。指折り数えて両手では足りなくなったのか、私の手を掴んで無理やり握らせてきた。 「手紙回しに、強者ごっこに、ケシカス飛ばし」 「いや、やらないから」  時々あいちゃんの思考は小学生に類似する。中学二年生になってもその童心はまだ健在だった。 「ちゃんと勉強しなきゃ後悔するよ」 「知ってる、よー」  うがーっと椅子の背もたれに思いっきり体重を乗っけてのけぞる。机がずれたらずっこけそうな勢いだ。 「お姉ちゃんが言ってたけど、高校受験って大変らしいよ。二年生のうちから準備しておいたほうがいいってさ」 「そうなんだ。一年生の頃からちゃんと勉強しといてよかったね」 「ね、あの時のわたしナイスっ!」  ぐっと親指を立てている。それに返すようにわたしも親指を立ててぐっとした。 「で、高校どこにする? やっぱり近い方がいいよね」 「え、もしかして一緒のところに行くの?」 「え、違うの?」  あいちゃんが全くの予想外とばかりに固まった。そこまで驚かれると、そんな話前にしたかなと自分の記憶を疑ったりする。 「……まぁいいけど」 「なんだよ~、わたしがいなかったら寂しいだろ? ん?」 「別に、いなかったらいなかったで新しい友達作るし」 「作れないくせに。わんちゃんあんまり友達いないじゃん」 「必要性を感じないからね」 「わたしがいるから?」 「はいはいそうだねー」 「照れんなよー」 「照れてないし」  うりうりと机に乗り出して詰め寄ってくる。「うざ」と手で押し返そうとするも、なかなか戻らない。結構力強くなったなと感じる。 「そうと決まったら早速勉強会だね!」 「え、どこいくつもりなの?」 「うんと頭のいい高校に決まってるじゃん、目指せ東大!」 「……不安だ」  まず高校と大学の違いから説明しなければならないのか。小学生が未だ抜け切れていないのが、いかにもって感じに思えた。
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