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景色に映り込んでいる物自体に目新しいものなんてない。しかし、見慣れていないから、全くの別物のように見える。家も、車も、道路も、お店も。私の知らない場所を、知っているあいちゃん。数歩だけの距離がひどく遠くに感じる。それが怖くて、昔のようにあいちゃんの手を取って、握った。仕方ないなぁと握り返される。
ブランコがニつと鉄棒、ベンチだけという簡素な公園についた。ブランコに二人で腰掛け、甲高い音を鳴らす。
「私、怒ってるんだからね」
あいちゃんは特に何かを話始めようという雰囲気がない。私の言葉を待っているような気がした。この気持ち悪い沈黙が耐えられなくて、何を言おうと思ったときに素直に思ったことを伝えた。
「だからちゃんと説明して」
なんで、と聞くとはぐらかそうとするのは昔からだ。私たちにはそういったいくつものいつも通りがあって、なんとなく今回もそうするだろうと思ったから、いつもと違う聞き方をした。
「うーん」と考えるような相づちが隣から聞こえてくる。キィ、キィ、と何回かブランコが揺れる音の後に「うん」と頷くような声がした。
「ごめん、やっぱり無理」
「何が無理な——」
ここまできて話そうとしないような返答にイラっときて、あいちゃんを見る。すると。
「だって、だってだってだってっ! しょうがないじゃん、もう……」
あいちゃんは泣いていた。「だって、だって」と子供のように泣きじゃくって、何度も停滞する言葉を吐き出している。
なんて切り出せばいいのか、話してどうすればいいのか。多分あいちゃんはわからなかったんだ。きっとあいちゃんはそういう話が苦手で、自分でもどうしようもなく怖くて、だから話せなかった。きっとそんなところだろうと予想する。予想して。
「あいちゃんはバカだなぁ」
思いっきりビンタするような勢いで、この雰囲気を笑い飛ばしてやった。
「バ、バカって——」
「あいちゃんはさ」
言葉を遮る。ここで言い合いなんてしたくない。したくないから、もう少し違う言葉にしておけばと後悔する。後悔するから、これから言おうとした言葉を考え直して。
「私のこと大切?」
シンプルに聞いた。
「大切だよ」
「ありがと」
「わんちゃんは?」
「ん?」
「私のこと、大切?」
「大切に決まってんじゃん」
「本当に?」
「いまさらなに言ってんの、じゃなきゃこんなとこまで来ないよ」
「だよね、知ってた」
へへっとぐちゃぐちゃ顔で笑う。小学生のときに何度も見たその顔が懐かしく感じて、私もつられてへへっと笑った。
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