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実質、隣同士
「もし五十音表が球体だったら隣になれるのに」
青く澄んだ春の空が、少しだけ開いた窓から見える。大きく息を吸い込むと、鼻を浮かび上がらせる冷気が入ってくる。まだ手袋もマフラーも必要だけど、もう少しで必要がなくなりそうな匂いがしていた、そんな日の放課後、教室であいちゃんは言った。
「どういうこと?」
「つまりね、こーいうこと」
席順表を教卓から取ってきて、そのまま四つ角を一点に集めるよう折り曲げる。見た感じ三角形のように変形しているし、無理矢理球体にしようとしているため変に折り目がついている。ラミネートの抵抗もあって、球体にはなっていない。
「メガホンみたいに丸めたらダメなの?」
「そっか」
手を離すと勢いよく元の平面上に戻ったそれを今度は丸めている。ロールケーキの形になって、球体じゃないけど、まぁいいかと思う。
「こうするとさ、わたしとわんちゃん、隣になるでしょ?」
なってなかった。線上では確かに隣だけど、隣同士にはなっていない。
「なってないよ?」
「なってるの!」
持ち直してそのまま叩かれる。ポンっと小気味いい音がして、そんなに痛くはなかった。
「今日ね、授業中に思ったんだ。平面で考えられていたものでも本当は球状である可能性があるなら私たちだって、本当は常に隣同士なんじゃないかって」
元々地球は平面状で考えられていたのだが、マゼランが世界一周航海によってそれが反証されたのだと習ったことだろう。
「もしかして、まだ怒ってるの?」
「当たり前だよ!」
みょいん、と手を離したラミネートの座席表が水平になって机の上に滑り止まる。その上からたたきつけたあいちゃんの手が音を鳴らす。
「一年間席替えなしなんて信じられない!」
青野愛亜と和田和音。
私は窓側一番後ろの席。蒼井は廊下側一番前の席。あとわ。初めと終わり。
私は別に気にしないけどあいちゃんは相当嫌なご様子だ。
「そうだ、わたしたちでテスト、1位2位を独占したらさ、特別に席替え許してくれるかもしれない」
「そんなに甘くないと思うな」
「いーや、絶対行けるって。小学校の時はそうだったじゃん。きっと中学校でも頑張ればいけるよ」
「んー、まぁそうか。そうだね」
あいちゃんは嬉しそうに目尻を細めてにやっと笑う。
「ずっと隣にいてね」
「うん」
素直に頷く。あいちゃんと同じで、私もずっと隣にいて欲しいと思っていたから、肯定の言葉はすんなりと私の口から出ていった。
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