Ⅰ.見合わせ

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 今日の予定は特にない。強いて言えば移動のみだ。  現地での作業を前倒して終わらせられたので、予定よりも早く家路につくことが出来る。昨日のうちに帰りの新幹線を抑えておいたので、今日は本当に荷物をまとめて、それに乗るだけだ。道中か帰宅後かに作業報告のメールをひとつ飛ばせば、仕事だって無きに等しい。  そんなわけで、私は意気揚々と荷物をまとめてホテルを後にした。  土産物屋に寄ったら、スーツケースが往路より明らかに肥えた。普段ならそんなに買うことはないのに、達成感からか余裕からか、ご当地の商品に手が伸びてしまった。  太った荷物をカラカラと引きながら、軽やかに駅に向かって歩く。  まだ雪は降っていなかったが、時折風が吹くと、肌を刺すような冷気が私の眉を寄せさせた。北陸は好きだが、東京が少し恋しくなった。  ――九時半金沢発の新幹線に乗った。  お昼には東京に到着しているだろう。帰る道すがら食事を摂って、残りの就業時間はテレワークにしよう。そう目論んでリクライニングを少し後ろに反らす。車内はガラガラというわけではないが、一列置いた間隔で座席が埋まっているといった雰囲気で、ゆとりはあった。  スーツ姿の男性や、大きな鞄を荷台に上げる女性などを見ると、私と同じように出張の人なのかなと、勝手な親近感を覚えた。  そんな穏やかな雰囲気にのまれ、私は富山駅に着くまでに、早くもコクリコクリとうたた寝を始めてしまったのだった。
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