Ⅱ.運休

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Ⅱ.運休

 これはまずいやつだ――。  瞬時にそう察した。アナウンスの声音が深刻さを物語っていたのもあるが、何より「しばらく運転を見合わせる」というワードに絶望感がある。鉄道会社が言う「しばらく」は、経験上、乗客にとっては「かなり」を意味する。  あちらこちらで、携帯電話で通話する声が聞こえ始めた。 「すみません、今新幹線に乗っているんですが止まってしまって……」  概ねそんな会話だ。私の二つ後ろの席からも、若い男性と思われる快活な声が聞こえてきた。 「多分動くまで結構かかると思います。しかも駅じゃないところに停車している状態なので身動きとれなくて……」  その言葉に、私はハッとさせられる。  もしこのまま電車が動かなかったら、迂回路に出ることすら出来ない。その事実に気が付いたのだ。駅と駅の間、言い換えればただの道端だ。窓から見た感じ、田園風景とぽつぽつと住宅が見えるだけで、およそ駅と言えるようなものは見当たらない。しかも天気は雪ときている。  これって、もしここで運休とかになったら……。  そんなことを考えつつ、私も鞄からノートPCを取り出して、上司へのメールを打つことにした。もちろん内容は新幹線の運行状況についてだ。  文章内に「しばらくすれば動くとは思いますが」なんて書いていたら、また車内アナウンスが流れた。 『現在架線垂れ下がりの影響で、上野大宮間で停電が発生しております。現在復旧作業を行っておりますが、運転再開までは相当な時間を要することが見込まれます。お急ぎのところ電車が止まってしまい、大変申し訳ございません。情報が入り次第ご連絡致します』  ……相当な時間を要す。  って、動かないってことじゃないの。私は血の気が引くのを感じた。  そして不安な気持ちのままバックスペースキーを連打して、メールの文章を悲壮感のある内容に書き換えざるを得なかった。
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