Ⅱ.運休

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 私が手に取ったのを見て嬉しそうに微笑んだ彼は、一段と若く見えた。いや幼く見えたと言ったほうが近いだろうか。それくらい、毒気のない可愛らしい笑顔だった。 「いやあ、電車動かなそうっすよね」 「あ、はい、そうですね」  やはりさっきの電話の声の主だ。いかにも営業マンといった軽妙な口調と、声の張りがある。 「あの……何か、用ですか?」  私が警戒心丸出しで問いかけると、彼は目を丸くして否定するように手を左右に振った。 「あ、すみません、ナンパとかじゃないですよ! ちょっと情報交換がしたかったって言うか、暇だったって言うか――」  そこまで言うと、一度言葉を切って、片方の口角だけ上げながら発する。 「――いや、まあ、それってナンパですね」  否定の勢いと、その後の自己解決っぷりがなんだか可笑しくて、思わず吹き出してしまった。悪い人ではないような気がしたせいかも知れない。  私が笑ったのを見て安心したのか、すこし恥ずかしそうな顔をしながら、彼は問いかけてきた。 「お仕事……ですよね?」 「はい、出張の帰りで」 「ですよね。一緒です、僕も」 「どこから乗りました?」  気付いたら私も質問を返していた。  いや別に、興味があったわけではない。エンドユー的な感じだ。 「富山です。僕が乗ったとき、寝てましたよね」 「え!? 見られてたんですか、やめてくださいよ!」 「いやいや、可愛い寝顔でしたよ」  私は恥ずかしさとツッコミ的な意味を含めて、初対面で名前も知らない彼の頭を軽く押してしまった。やってから「あっ」と思ったが、彼は特に気にした様子もなかった。 「そっち、行ってもいいですか?」  彼は私の横を指さした。私は三人掛けのシートの窓側A席に座っていた。隣とその隣のBC席は始めから空いていたし、断る理由もなかった。 「ナンパじゃないですよね?」 「いや、もうナンパでいいですよ」  彼はそう発しながら、ひと席空けたC席に腰掛けた。
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