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その時、状況を楽しみつつあった私のテンションを下げるアナウンスが響き渡った。
『この電車を含め、全線で本日中の運休が決まりました――』
車内のあちこちで「はああ!?」という声が上がった。
『在来線での帰宅を希望される方は、乗務員が誘導しますので、軽井沢駅まで線路を辿って徒歩で移動して頂けます。ご希望の方は六号車、七号車までお越しください。本日はご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません』
……恐れていたことが、今、現実に。
軽井沢まで徒歩で移動って、どれくらいなのだろう。数キロはあるだろうな。このままだと車内で宿泊か……。
「どうします?」
隣から彼が問いかける。私は腕組みをしながら、
「どうしよう」
と答えた。タメ口だった。彼は笑顔で言った。
「残りましょう」
「どうしてですか」
「外、雪ですし。それに――」
彼は少し目線を左右に泳がせると、私の方を見据えて続きを言った。
「――ゆっくり、お話、したいです」
私の中の迷いが、彼のその言葉によって晴れた。
「じゃあ……私も、残ります」
「よかった。お名前訊いても、いいですか?」
「高野です。高野涼菜」
「俺は喜久田洸って言います、宜しくです」
私と喜久田さんは、こうして知り合うことになった。
相変わらず車内では通話音や怒号が響いていたが、私達二人の雰囲気は、外でしんしんと降り積もっている雪の方に近かったように思う。
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