彗星降る夜

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 リュンのこの部屋に置きっぱなしにしている数種類の紅茶から、ライチの香りづけがされているフレーバーティーを選び出し、ケトルを火にかける。  リュンは部屋でまったく自炊をしないから、このコンロは私が紅茶用のお湯を沸かすためだけにあるみたいだ。私とリュンが飲むための。もしくは私とアイが飲むための。  アイは大砲でどこかに狙いを定めるみたいに膝立ちになって望遠鏡を覗いている。目に馴染んだアイの姿。今でも変わらず私達のリーダー。天文サークルで部長だった頃そのままに。  アイに従っていれば、私達は間違えることがなかった。土星の輪の美しいカーブを愛でたり、アイスクリームを掬い取りながら遠い星雲を観測したり、雨が降ればその雨の音を聴きながら部室で缶チューハイを飲んだり。  アイに任せておけば日々は最良に過ぎていった。部員は皆、アイを拠り所としていた。もうポラリスと称していいんじゃない?そう言ったのは私より一つ上のラムだった。  悔しいけど私達、忠実に北極星の周りを回ってるってわけね。あのとき顔をしかめたラムはちっとも悔しそうじゃなかった。    茶葉とたっぷりの湯を入れたポットを蒸らしていると、うっとりするライチの香りが満ちてきた。窓を閉めたアイが、ごつごつしたダイバーズウォッチを腕に嵌め直しながらダイニングテーブルにやってくる。  彗星を眺めていたというよりは、気持ちを切り替えていたのだろう。私と身体を合わせた後は、罪悪感を特別な場所に仕舞い込むのに少し時間がかかる。そして全部どこかに置いてきたみたいなあっけらかんとした態度を取ろうと努めるのだ。
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