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実際は、“何らかの感染症だったら自分達が感染するかもしれないのが怖い”上、“都の軍勢が押し寄せて村ごと焼き払われては困る”という、自己保身でしかないというのに。
「どうしたら、いいのかな」
僕は砂浜に座り、蹲った。
「鬼が怖いって気持ちも、僕はわかるんだ。確かに、鬼になった人達の姿は恐ろしいよ。人を食ったところを見たことはないというけれど、それも本当かはわからない。食われた人はいるのに、死体がたまたま出てないだけかもしれない。それに……英雄、の伝説もあるというし」
英雄。
それも、都から流れてきた商人から聞いた話だ。なんでも、都には古くから語り継がれる伝説があるらしい。――悪しき鬼が人々を脅かし、苦しめる時、東の果てより英雄がやってきて悪い鬼を滅してくれるのだと。
彼は仙人が食べるという不思議な桃から生まれて、美しい容姿と大きな体を持ち、人間離れした頭脳と怪力を持ち合わせているのだと。動物と心を交わし、強い正義感を持っているのだと。
「英雄が来たら、この村はどうなってしまうんだろう。……父さんと母さんは言ってたんだ。英雄が来たら、この村の者達みんな鬼と間違われて殺されてしまうかもしれない。そうならないようにしないといけない。なんとしてでも、鬼ヶ島の鬼たちが全ての諸悪の根源ということにしなければいけないと」
「伝説は、伝説だ。本当かどうかなんてわからねえ」
「うん。けれど、そんな伝説に踊らされるほど……みんな怯えて、怖がってる。僕も……」
そう、怖い。
結局のところ死ぬのが怖くて、鬼になるのが怖くて、自分達の悪行がバレるのが怖い。
だから間違ってるとわかっていても、声を上げる勇気がないのだ。
「なあ、吉助」
俯く僕に、貫太は言った。
「生きてるって、どういうことだと思う?」
「どういうって?」
「俺ぁな。……生きてるってのは、自分の信念貫いて、胸張って生きるってことなんだと思うんだ。いっつもびくびくして、隠れて、怯えて、正しいことも正しいと言えねえ。そんな生き方で、果たして生きてるって言えるのかって」
「!」
彼の言葉に、僕は察してしまった。貫太が一体何を考えているのかということを。
「駄目だよ、貫太!逆らっちゃ駄目だ!」
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