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「村で、変な病気が流行って、鬼みたいな姿になっちゃった人が出たんだ。村の人達は、その人達が何も悪いことしてないのに村から追い出した!何もない鬼ヶ島に閉じ込めて、飢え死にするのを待ってるんだ!!貫太は……貫太たち一家はその鬼の人達に食べ物を届けていたから、裏切者扱いされて鬼ヶ島に流された。自分達が食べ物をあげれば、鬼ヶ島の人達が漁船を襲って強盗なんかしなくても済むようになるからって、助けられるからって、それで正しいことをしただけなのに!」
「黙れ!お前も裏切るがか!」
「裏切ってなんかない、裏切ってんのはお前たちの方じゃないか。自分達とは違う人達を除け者にして、悪者にして、苦しめて、それで何が被害者だ!お前たちにできるのか、貫太たちのような生き方が。胸を張って、生きているんだって堂々と誇れるような生き方をしてるのか!」
叫ぶ、叫ぶ、叫び続ける。
「僕は嫌だ!人間のまま、本物の鬼になんかなりたくない。僕は、貫太みたいに……ずっと人間として生きるんだ。間違ってることは、間違ってるって言うんだ、だから……!!」
台詞が中途半端に途絶えた。腕を掴んでいた男に、思い切り頬を張り倒されたからだ。
砂浜に叩きつけられ、口に砂が入ってくる。切れた頬が痛い。打ち付けた頭が痛い。痛みで、涙が出てくる。
でも本当に悲しいのは、体の傷なんかじゃなくて。
「吉助」
そんな僕に、ただ一人手を差し伸べてくれた人がいた。
顔を上げる。そこには桃太郎と、お供の動物たちが。
「よくぞ、勇気を出して言ってくれました。……貴方こそ、誠の英雄です」
彼は僕の手を引っ張って起こすと、集まってきた人達に向かって告げたのだった。
「村の衆よ、今一度問う!……そなたらは鬼か、人か!胸に手を当て、堂々と人と名乗れる者がこの中にどれほどいるのか!このような小さな少年にこのようなことを言わせ、暴力で黙らせ、恥ずかしいとは思わないのか!!」
どうして、彼が僕の言葉を信じてくれたのかはわからない。ひょっとしたら桃太郎は、最初から真実を知っていたのかもしれないとさえ思う。
それでも、確かなことは一つ。
僕が振り絞った勇気は、けして無駄ではなかったということだ。
「貫太……!」
「き、吉助……!」
桃太郎の手によって、鬼ヶ島から救出された“鬼”たち。
貫太と抱き合って喜びあうのは、まさにその日の夕方のことだったのだ。
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