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「桃太郎、さんは。どうして鬼退治をしようと考えたの?東の、とっても遠い国からやってきたんでしょう?旅は長くて、大変だったはずなのに」
すると彼は、からからと笑って答えたのだった。
「それは、私がおじいさんとおばあさんから受けた恩を返すためです。桃に封じられて流されていた私を、おじいさんとおばあさんは助けて、我が子として育ててくださいました。お二人も貧乏で、子供を育てるような余裕なんてなかったはずなのに。私は、二人に誇れる人間になりたい。そして、受けた恩をまた別の人にも返していきたいのです。……英雄なんて称号は要りません。ただ、誰かのために頑張れる、誇り高い自分になりたいだけ。結局、自分のためなのです」
恩を返していく。自分が助けて貰った分、誰かに。
本当に、どうしてこう貫太と同じことばかり言うのだろう、この人は。
「……僕には」
膝の上、握りしめた拳が震えた。
「大好きな親友がいたんだ。親友だし、同い年だけど……すごくかっこよくて、強くて。僕がいじめられてたらいつも助けてくれる、お兄ちゃんみたいな親友が。ずっとこの村で一緒に暮らしていきたいと思ってた。それなのに……それができなくなっちゃったんだ」
「できなくなった?どうして?」
「正しいことをしようとしたんだ。この村の歪みを正そうとした。そしたらみんなに嫌われて、殴られて、鬼ヶ島に……。僕、僕はたくさん、貫太に助けてもらったのに!僕が弱いから、助けてあげることができなかった。何もできずに見捨てるようなことをしちゃった!」
一気に吐き出して、ようやく理解した。
自分はずっと苦しかったのだと。ずっとずっと後悔していたのだと。
この苦しみと後悔を背負ったまま、素知らぬふりをして村で生き続けていれば安全が買えたことだろう。でも、果たしてそれで僕は幸せになれただろうか。
答えは、否。ようやくわかった。
死んだように生きていくとは、胸を張って生きていないとは、まさにこういうことだったのだと。
「この村は、間違ってる!」
話の流れがまずいと気づいたのだろう、村の男達が駆け寄ってきた。腕を掴まれて抑えつけられながらも、僕は叫ぶことをやめなかった。
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