<前編>

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<前編>

「ええか、吉助(きちすけ)。これは、俺達だけの秘密だがんな?」  それ、をする時。父さんと母さんは、僕のことをとても冷たい目で見下ろす。  冷たい海に、一隻の釣り船。そこに乗せられているのは、ボロボロの衣服をまとった男の人と女の人、そして女の人が抱えている赤ちゃんだ。  彼等は紛れもなく人間だった。ただ一つ、ある身体的特徴を覗いては。 「絶対に、村の外のやつらにバラしちゃなんねえ。それをしたら最後、俺らは村八分にされちまう。おめえが一人で追い出されるかもしんねえ。絶対嫌だろ、そんなことは」 「う、うん……」 「わかってんならええ。……俺らだって、こんなことが正しいと思ってるわけじゃなか。仕方ねえことはある、この世の中には」 「……うん」  父さんと母さんに、代わる代わる言われてしまってはどうしようもない。遊飛が沈みかけた海、小さな灯篭だけを掲げて船は海へと漕ぎだした。父さんが男女と赤ちゃんを乗せた船で進んでいくのを、僕は母さんと一緒に見送るしかなかったのである。  薬で眠らされた彼らは、まだ暫く目覚めないだろう。  気づいた時は岩だらけの離島でした、なんて――文字通り、悪夢のようなことだと思う。あの島に資源が乏しいのは明白で、まっとうなやり方では生きていくことさえままならないのだから。  それでも、父さんの手で彼等が“島流し”になった理由はただ一つ。 「ねえ、母さん」  僕は震える声で、母に告げたのだった。 「僕達は、本当に“鬼”にならないの?鬼になったらあの人達みたいに、島流しされちゃうの?」  僕の言葉に、母さんは首を横に振ったのだった。 「滅多なこと言うもんでねえ。俺たちはただ、与えられた役目をこなすしかねえんだべさ。心清らかに過ごしてれば、俺らは鬼になんねえ。みんなそう言っとる。それを信じるしかねえべ」 「……うん」  心清らかとは、なんだろう。あの、小さな赤ちゃんとそのお父さんとお母さんは、清らかではないと神様に判断されるようなことをしたのだろうか。  彼等が島流しされた理由はただ一つ。  頭に角が生えてきたから。――ただ、それだけなのだ。
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