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平屋から追い出されたあの夜のぼた雪の光景が忘れられない。
頭に降り続く大粒の雪、かじかむ手。そして、泣く寸前の孫娘の美瑠。アタシはこの夜に決めていたんだ。いつか、同じ思いをあの人にと、けど、そのためにはアタシが忘れっぽくなっている老人ではなくて、完全に忘れている老人を演じなくてはいけない。
「美瑠、泣かないで。おかあさんのためにお遊びしよう?」
「おかあさんのため?」
美瑠の顔中についてくる大粒の雪を赤くなっている手ではらってあげながら、アタシは笑う。
タレ目で丸い顔、そしてだんご鼻に薄い唇。見れば見るほど息子に似ている。
どうして、息子は愛する娘をそしてアタシを置いていったのか?
息子が出ていく時に、言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。
『もううんざりだよ!!』
華さんをいびりすぎたから?それとも孫娘に甘すぎるからか。どちらにしてもここで終わるわけにはいかない。
「そうじゃないよ。アタシたちのためだよ」
追い出されたことすら忘れて遊んでいるそんな風に思わせられたら、アタシの計画は順調に進んでいる。
「おばあちゃん?」
「美瑠、いいかい?おばあちゃんの言うとおりにするんだよ」
孫娘は素直で優しい子。アタシの言うことならなんでも聞いてくれる。二人して真っ赤な手で雪を掴んで遊んでいるフリも、なんでもね。
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