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疑問
この世に生まれて、何が悪いというのだ。
彼はきっとそう嘆くことだろう。
できれば彼の記憶は消したいし、自分がやってしまったことを誰にも知られたくない。
けれど戒めという意味を込めて、ここに記しておこうと思う。
今から10年前、僕はまだ幼い小学生だった。
その時から、僕は自由な人間だった。
今も高校生として、それなりに自由な学校生活を送っている。
昔も今も、自由というのは崩れることはなかった。
しかし、自由には限度がある。
例えば人を殺めたり、何かしらの物を盗んだりするというのは、明らかに限度を超えているし犯罪だ。
僕も友達も、人を殺したり、物を盗むということは決してやっていない。
……物は盗まなかったけど、人以外なら殺したことがある。
小学生の頃だった。
僕は、彼を飼育していた。
何故彼を飼っていたかというと、自分の意思で飼いたかったというわけではなかったのだ。
僕は別に彼限定で欲しい、飼いたいという要求はしなかったのだ。
彼を飼う日は突然やってきて、父親が彼が入った籠を、鞄から取り出した時に始まった。
当然僕は欲しがっていたわけではなかったから、素直には喜べなかった。
きっと父親は、僕が喜ぶだろうとわざわざ買ってきたのだろう。
そういうことを考えていた僕は、自分の感情を削り落として、その場しのぎに作った感情を父親に見せた。
そうすると父親は僕に笑顔を見せ「良かった」と言った。
それを聞いた僕は心を痛めた。
嬉しくもないのに、喜びもないのに、父親を悲しませないように僕はそれらの感情を捨てたのだ。
この頃から僕は、自分の中にあるもう一つの顔を作り出していたのだ。
きっと今も、そしてこれからも作り続け、騙すことだろう。
斯くして、僕は彼の世話をすることになった。
正直な所面倒だった。
小さいせいか、彼はよく暴れていた。
特に夜がうるさかった。
それが耳障りで、慣れるまで眠れなかった。
餌を与える時など、暴れるんじゃないかという疑惑が僕の心の中にあって、しばらくは父親が手伝ってくれていた。
きっと慣れたら楽しいのだろう。
そんな小さな希望を、僕は持っていた。
けれど、そんなことはなかった。
そもそも彼を最初から拒絶してる時点で愛着が持てなかった。
いずれは愛着が持てるなど、そんなものはなかった。
そして僕は考えてしまう。
何故、自分は感情を殺してまで飼った?
何故、父親に預けなかった?
苦手だと自白すれば、こんなことにはならなかったのに。
自分にとっては苦手なのに、耳障りなのに、世話をするという苦痛は分かりきっているはずなのに。
自分は最低だ。
それらの疑問をずっと心の中で反芻し、僕は死んでしまった黒い彼を公園の隅に埋めた。
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