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そう言った男の音声が消えてしばらく待つと、「どうぞ、お入りください」と声がしたと同時に、門扉がカチャリと音を立てて開いた。言われた通りに、僕は敷地内へと入っていく。屋敷の庭は草が腰の高さまで茂っており、長らく手入れが放置されているのが分かる。――それも仕方のないことだ。この家の使用人の仕事は屋敷の中限定、そう、氷の魔人が定めたのだ。だから僕は今、誰の案内もなく、一人で屋敷の玄関の方へと歩いている。
両開きの玄関の片方の扉を開き、氷の使用人は待っていた。氷の魔人が死んだ影響か、使用人の形は前にあったときとは随分と変わっており、その風采からはピカソの絵画を思わせるほどの歪みが見えた。
「入る前にこちら、良ければお使いください」と、使用人は僕にシルクのタオルを手渡してくれた。(だが、使用人の液体でタオルは濡れており、既に使えたものではなかった)
「奥様がお待ちです」と、使用人は僕を促す。長い廊下をこえて、奥の部屋へと案内された。
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