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氷の魔人のことを言うと、彼女はまた顔を覆って泣き出した。 僕は思わずため息がでた。――これは長丁場になりそうだ。僕は彼女が座るベッドの横に腰をかけた。すると、臀部にじわりと水がしみ込んでくる。氷の女王の身体が解けた痕跡だ。今日、嫌というほど目にしてきた水たまりが、ここにもあった。――今更かまうものか。
「こう言いたくはないんですが、貴女がいつまでも落ち込んでいては困るんです。街では雪解けが始まっていて、冬が終わったと勘違いしたツボミがいくつも開こうとしている」
「いいじゃない、別に」やっと口を開いた魔女の声はひどく掠れていた。
「花が咲くのは良いことだわ。主人に手向ける花も欲しかったし、丁度いいわ」
「だから、それじゃあ困るんですよ。春にはどんな花を開こうかと色んなツボミ達が意気込んでます。彼らの承認欲求の強さは貴女もご存じでしょう。その為に、冬の間は貴女の旦那さんに頑張ってもらって、僕は力を蓄える為に冬眠するという契約だったんですよ」
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