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「氷の魔人が死んだ」
世界を震撼させるニュースが飛び込んだ。僕がそれを知ったのは今朝のことだ。瞼の外から雨粒が地面を叩く音が聞こえてきて、意識の覚醒と共に、雨の日特有のにおいを鼻孔で感じる。習慣的に部屋のカーテンを開くと、世界は灰色の膜で覆われていた。まるで、平筆で何度も伸ばされたような薄い雲が張っていたのだ。そこから落ちてきているのはやはり大量の雨粒だった。
僕はすぐにスマートフォンを開き、天気予報と並んで表示されているニュースを眺める。氷の魔人の訃報でトピックスは埋め尽くされていた。どうやら自分は夢からは覚めているようだということを、この時はじめて確信する。――今日は忙しくなるな。僕はハンガーラックに干してあった白シャツと上下紺色のスーツに着替え、リビングの机に雑然と置かれたゴミやら紙束やらの中からカロリーメイトを取り出して、一袋破り、口の中に放り込む。うまく呑み込めなかったのでヤカンの水で流し込んだ。
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