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友達と恋人の違い ♡
僕の専門は人工皮膚だ。
10年前、二度の飛び級で工科大学院まで卒業すると、僕は昼夜を問わず研究に没頭する毎日を過ごすようになった。
今のところ、皮膚の感触と体温しか人間に寄せることは出来ないが、もっと多くの感覚をアンドロイドが持つようになってくれたら、とても素敵だと思っている。
五感が研ぎ澄まされれば、きっと彼らの感情も発達して、行動も言葉もそれに連動するようになるはずだ。
あまり身辺に構わない僕はいつも研究に夢中で、お腹が鳴ってやっと空腹に気がつくレベルだ。アレックスはそれを心配して、食事に気を遣うようになった。
「未來。ご飯だよ。食べたらまた続きをすればいい」
「うん」
僕は素直に食卓に向かい、栄養バランスが考えられた食事をゆっくり味わう。アレックスの作るものは、いつだって心がこもっていて温かかった。僕は彼の優しさに癒やされ、彼はそんな僕を嬉しそうに見つめている。
「君は食べないのか」
「僕はコレで足りるよ」
彼は小さな缶を掲げて見せた。
僕たちのように食べても食べなくても、彼らは液体燃料があれば生活できる。あくまで論理的に、機能的にだけど。
さっきまで感じていた柔らかな空気がぱちんと弾けたみたいで、僕は少し寂しくなった。
「ひとくちだけ」
僕がフォークで差し出したりんごを彼がかじると、咀嚼する音が聞こえてくる。ごくんと嚥下すると、頬と喉元の柔らかい皮膚が、動きに合わせて自然に伸び縮みした。そのなめらかな美しさに、僕はしばらく見惚れていた。
「おいしいね」
彼が笑った。
その顔に、僕の心はぎゅっと掴まれたように苦しくなった。
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