アレックスの目覚め

2/3
前へ
/16ページ
次へ
 アンドロイドのアレックスが僕の元に送りこまれてきたのは、2年前のことだった。 世界の片隅で起きた銃撃戦に巻き込まれた彼は、全身が破壊されてただの金属片となり、脳に当たる部分の損傷も危ぶまれるほどの状態だった。 彼の電源が入らなければ、蓄積された貴重なデータは取り出せない。透視(スキャン)の結果、(ブレイン)は無事だとわかったため、(ボディ)の修復が許可されたのだ。 僕は横たわるアレックスの傍らに立った。 透き通るような白く柔らかな肌。 瞳を閉じていてもわかる端正な顔立ち。 まるで、眠れる森の─ 「アレックス。起きて」  僕が声をかけると、彼はゆっくり目を開けた。 琥珀色の綺麗な瞳が僕を捉えた。亜麻色(グレージュ)の短い髪にその瞳がとても()えている。 やっぱり この色にして正解だったな 「僕は未來(みらい)。ここは僕のラボだよ」  彼は体を起こして辺りを見回した。 『状況確認 解析中』 彼の電子回路が目まぐるしく動き始めたのがわかる。 彼は僕を視界に認めると、少しだけ口元を緩めた。 「こんにちは。未來さん」  耳に心地いい声だ。 「今日からここが君の家だよ。気分はどう? どこか痛む?」 「いえ。とてもいいです。指先までちゃんと動きますし、認識機能も良好です」 「よかった。酷いケガだったからね。しばらくはゆっくり休むといいよ」  僕がそう言うと、アレックスは僕の顔を見て淡々と答えた。 「私は大丈夫です。液体燃料(エネフィル)さえ頂ければ」 「…ああ。そうだったね」 「あなたが私を助けてくれたのですか」 「うん。そうだよ」 「ありがとうございます。私に出来ることがあれば、何でも(おっしゃ)って下さい」  そう言われて、僕はあることを思いついた。 「じゃあ、早速頼むよ。僕と話す時は敬語はナシだ。友達と話すような口調でね」 「友達、ですか」  不思議そうに首を傾げた彼は、しばらく僕を見ていたが、にっこり笑った。 「わかったよ。未來」  僕も笑みを返した。 8aedc9f8-ec33-4112-af05-a631000029b1
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加