ACT3:コンティニュー

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ACT3:コンティニュー

" you win!! " パソコン画面に大きく表示された文字と派手なエフェクト、その場から消える課長のアバター。 銃をクルクルッと回して俺のアバターが勝利のエモーションを決めると、ヘッドホンからは悔しがるよりも弾んだ声がした。 『やぁ〜お見事! 何があっても期限を守る辺りがきみらしい。私を消したことで交渉成立だ』 わざとらしい声を聴いて、確信と納得……。 課長の遊び心に気付いてしまうのは仕事上の付き合いが長いからだ。 「結婚が白紙になったことはご存知だったのですね? バーチャルで課長に消され続けてる間に、リアルでは彼女に消されてました。有り体に言うと今夜の勝利はです」 『わはは。それはお互い様だなぁ知哉君。私も同じ理由だよ。きみに娘を盗られるより、きみを娘に盗られる方が気に食わなかったからね』 「は!?」 『前に生意気はって言っただろう? 娘の婿になりたい男がお気に入りの部下。これほど面白いモノはない。娘にあげるのは勿体無いよ』 「勿体無いって……」 開いた口が塞がらない。ヘッドホンからの応答は、鼻歌。俺はギュッとこめかみを抑えた。 昼間のミーティングもそうだった。 自社がライバル社に劣勢だとデータの数値を見るや否や、課長は明るい口調で無茶振りと無茶難題を俺に投げ寄越した。仕方なく対処するにはしたが、強行で強引な商談での解決は気分的に良い結果ではない。 課長はと思うは絶対に引かない。昼間も今も、良いように弄られた気がしてモヤモヤした。 『話を戻そう。娘をもらって貰わなきゃ交渉は成立しない。スッキリしないと思わないか?』 「彼女にフラれた時点で交渉決裂ですが?」 『きみの生意気はいいね! じゃあ、言い方を変えるとしよう。……知哉君、きみにはスッキリしない案件がもう一つある筈だ。 娘が惚れた里見君というはライバル社の御曹司なんだよ。気持ち良く商談を重ねる為にも、程よくデータ収集をしたいとは思わないか?』 「う……。オブラートに私情を挟んで来ましたね」 再び鼻歌で応答だ。 チッと思わず出てしまった舌打ちはマイクを通しただろうか。いや、いっそ聴こえてしまったらいい。 課長は内緒話をするかのように囁いた。 『娘の嵌ってるゲームは"冒険も婚活もバーチャルで楽しもう!"を売りにしているMMOだ。知哉君はとして二人に近付いたらいいよ』 「えーっと。意味がわかりかねますが?」 『楽しく行こうじゃないか、と言っているだけだ。探究心をぶつけたい場所は同じだろう? もね』 課長は痛いところを撃つのが上手い。 彼女が好きになった里見という男と自分の何がどう違うのか。憤りだって無いことはないし、フラれた理由も気にならないことはない。だけど、 「当ててしまうのは未練や屁理屈になります。みっともないでしょう?」 交渉に勝っても負け惜しみ。 『未練や屁理屈は当てて然るべきだ。巧く当てられた後に得る勝利のモーションだけ格好良くキメられたらいい。ゲームでの銃撃戦と何ら変わらないよ。その程度で消える相手ならその程度。サッサと忘れてしまいなさい。 娘のアカウントは添付ファイルにして送る。後はきみに任せるから……いいね?』 ……いいね? 断る隙を与えない口調に苦笑する。 「失恋にまでフィードバックですか?」 応答しなくなったヘッドホンマイクを外してペットボトルに手を伸ばしたところで、ピコン♪と鳴るメール音。 送られてきたものに目を通し、再び苦笑した。 "報告書は必ず提出しなさいよ" 文末の一文は、後方援護で命令だった。 指定されたゲームにマウスポインターを当てる。俺は一瞬だけ目を伏せた。 彼女への恋を消す為なのか、それとも習性となってしまった課長命令の消化の為なのか……。どちらにせよ、後悔しない為のインストールとデリート。 カチッと一音。 人差し指は、ポインターが当てられたままの失恋にダブルクリックした。(終)
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