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ACT1:ロックオン
" ready go‼︎ "
パソコン画面に映し出されるスタートの合図。キーボードを片手でブラインドタッチしながら、ヘッドホンマイクを微調整する。
スイッチをオフからオンに切り替え、纏う酒気を払い退ける。スーッと息を吸って吐いた。
「お疲れ様です……では、今夜も一戦よろしくお願いします。ハードスケジュールな上に食事接待の後なのに正直ログイン早くて驚きました。え…っと、呂律が回ってないようですが大丈夫ですか?」
カタカタカタ…カチッ、カチッ
キーボードとマウスがステップを踏むように音を弾くと、右、左、左、右。
画面の中の仮想空間で、自身のアバターがマリオネットのように手足を動かし『敵』を襲撃していく。
『ん〜♪ お前こそ余裕あるじゃないか。私よりハードスケジュールな癖して生意気だぞぉ』
「生意気ですみません。お利口さんだとあなたを消せないと思いまして」
ヘッドホンから聞こえて来るハイテンションな低音ボイスに、ローテンションで対応する。
『私を消す? フンッ、100年早い』
仮想空間で発見したヘッドホン越しのターゲットは、中性的な容姿のアバター。バトルロワイヤルゲームの熟練者であり、リアルでは仕事上の上司だ。
しかし今はただの酔っ払いにカーソルを向けた。絶好のチャンスだった。
「100年? 約束の期限を優にオーバーする月日ですね。手遅れは嫌なので今日こそチェックメイトです。あなたをお義父さんて呼ばせてもらいますから」
パァァァン!
迷う事なく引き金を引くと、ターゲットに向かって光線が疾った。連敗記録を打ち消して大敗を覆す筈だった……が。
" kill your avatar "
画面から消えたのは、俺!?
ヘッドホンから嘲笑う声が聴こえた。
『生意気っていうのは……な、生来いじり倒したくなるものだよ。 "お義父さん"だなんて、簡単には言わせんよ。わっはっは!』
中性的なアバターの勝ちモーションはウィンク。
低音ボイスと同時にクローズアップされたウィンクは、チグハグ。俺は我慢出来ずに舌打ちした。
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