雪のかけら

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俺は冷凍庫からボンベイサファイアの瓶を出した。 「あら、凍ってないの? 」 「アルコール度数の高い酒は凍らないんです」 俺はグラスにボンベイサファイアを注いだ。 「いただくわ」 雪女は実に美味しそうに飲み干した。グラスは右手に握られている。ほんのちょっと前までさおりんだった右手。さようなら、さおりん 「人間はこんな楽しみを味わってるのね。勉強になったわ」 「もし、俺がこの水を下水に流してたらどうなったんですか」 「そうねえ。下水を流れて海まで行って、蒸発して雲になって、雨になって、雪になって、いつか帰ってくるんじゃないかしら。水は天地を()めぐるものだから」 「そうですか」 それ以上、何の話題もなかった。 「それじゃあお暇するわ。夜が明けるまでに山に帰りたいの」 雪女は立ち上がると、俺にスッと近づいてきた。そして、俺の首筋に唇を這わせた。 刺すような冷たさが首を貫いた 「あたしの手首で遊んだ罰よ。春まで彼女はできないわね」 そう言って笑うと、雪女は粉々になり、無数の雪の粒になった。小さな雪の粒は部屋をぐるりと一回りした後、少しだけ開いていたドアの隙間から去っていった。 外は一面の雪景色だった。 そして俺の首筋には雪女がつけた紫色のキスマークが残った。きっとこれは、春まで消えない雪の思い出なのだろう。
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