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冷凍庫の中に、さおりんがいた。
ボウルの縁に腰かけていたが、俺の顔を見るとニコッと笑って、アクスタ通りのポーズで飛び跳ねてくれた。
俺は冷凍庫を閉じて、あわてて大西に電話した。3コールでつながった
「大西!! 冷凍庫の中に、なんでさおりんがいるんだよっ」
「さおりん? 彼女か?」
「ちがうちがう、ニャニ坂のさおりんだよ」
「ああ、推しのアイドルか。どうだ、すごいだろ」
「どういうことなんだよ説明しろ」
「あれはな。雪女だ」
「・・・・は?」
何を言っているか、全く分からなかった。
「いいか、よく聞け。俺が冬のキャンプ場に紛れ込んで凍死しかけた話は知ってるな」
「ああ。立派な冒険家だと話題になってた」
「まあ情けない話だ。予想以上に寒くてな。おまけに雪まで振りだした。俺はありったけのカイロを背中やらふくらはぎやらに貼り付けて、シェラフにくるまっていた。特に指先が冷たくてなあ。両手に一個ずつ握りしめていたんだ。これは寝たら死ぬやつかもしれんと思ったから、とにかく寝ないようにがんばってた。そしたらな。気温がいきなりズンっと下がったんだ。異様な下がり方だった。俺はシェラフに身を縮めて、目だけで外を伺った。もちろん真っ暗な夜なんだ。雪がさらさらと降り積もってることだけは確かだ。でも、そこに、白い影がぼんやりと浮かんできた。あれは何だ。俺は薄目を開けてじっと様子をうかがった。影はふらふらとキャンプ場の中をさまよっていた。女の姿だった。雪の日にふらふらと近づいてくる女。あれしかないだろう」
「雪女か」
「そうだ。俺は確信した。あれは、俺の生気を抜きに来た雪女だ」
大西の話を聞きながら、俺は昔話を思い出していた。雪の日に山小屋で寝ていた老人と若者。小屋の戸がすっと開いて、女が入ってくる。女は冷たい冷気を老人に吐き掛けて殺す。そして若者には、このことを黙っていれば見逃してやると告げるのだ
確かに、シチュエーションとしては、雪女だ。
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