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「なあ、雪女は、夏の間は何をしてると思う?」
口調を改めて、大西は聞いてきた。
「え? どこかで眠ってるか、もっと寒いところに行ってるかじゃないのか?」
「俺は、この手首を見たときに思ったんだ。雪女は、夏の間は水になってるんじゃないかって。水や水蒸気になって、山に登ってくる男の生気を少しずつ集めながら核を作り、だんだんと大きくなっていく。お前、小学校の時、塩の結晶を作る実験をしたことがあるだろう。小さい結晶がだんだんでっかくなっていくやつ」
「やったような気がする」
「たぶん、あんな感じなんだよ。雪女の作り方。だからこの水を凍らせたら、小さい雪女ができるはずなんだ。俺は水を製氷皿にあけて、高校時代に好きだった石田悠月を思い浮かべながら一晩寝た。結果は、わかるよな」
「ああ。お前の生気を吸い取って、石田悠月そっくりの小さい雪女が誕生してたんだな」
「そういうことだ。かわいくてな。テーブルの上に出していたらしばらく飛んだり跳ねたりしていたんだが、やがて溶けた。別に苦しんだりはしなかった。雪ダルマが解けるみたいに自然に溶けていたんだ。だから、また冷凍庫に入れた」
俺は、大西のげっそりとした顔を思い出した。そうか、自分の身を削りながら夜な夜な小さな雪女を作り上げていたんだ。
「俺に預けたのは、体力の限界を感じたからか」
「ちがう。こんな素晴らしい妖精と暮らせるのなら死んだってよかった。でもな。雪女が何かをつぶやいていることに気が付いたんだ」
「何だ?」
「最初は、もしかしたら会話ができるのかもしれないとワクワクしたんだ。彼女が何をつぶやいているのかと耳を澄ませてみて、ぞっとした」
「なんて言ってたんだ」
「〇〇県△△市××区3丁目4番白雪荘302号大西雄太、とつぶやいてた。俺の住所と名前だ。テーブルの上には、電気料金の督促状が置いてあった。そこに書いてある住所を読んでいたんだ」
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