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冷凍庫の中には、相変わらずさおりんがいた。退屈をしていたのだろう。ふくれっ面をして見せた。かわいい。ほんとうにかわいい。手放せない。大西がうまいことやったら、週に一回くらい貸してもらおう。
そう思っていたらスマホに大西から着信があった。
「・・・すまん。負けた。今からそっちに雪女が向かうから、渡してくれ」
しわがれた声で、振り絞るようにそういうと、電話は切れた。
おい、待てよ。少しは粘ったのか? どうしたらいい? 逃げるべき? どこへ? ウィークリーマンション?
頭の中を様々なプランが駆け巡ったとき、突然さおりんがしゃべった。
「いくわよ。今から。逃げても無駄よ」
俺は、へたへたと座り込んだ。
しばらくして、玄関のチャイムが鳴った。
インターホンには何も映っていない。
「どうぞ。開いてますよ」
俺は声をかけた。ノブがガチャリと回って、白い人影が入ってきた。
「こんばんは」
鈴を振るような声で雪女は言った。
「あら、準備万端ね」
ダウンコートにマフラー手袋、ありとあらゆる防寒具を身に着けた俺の姿に、少し微笑んだ。
美しい・・・。手元にいるさおりんが、すっかりかすんでしまった。トレンチコートを羽織った雪女は、今まで見たどんな女性よりも美しかった。無数の男から夏の間に採取した理想の女性像に基づいて結晶化した美女。それが雪女なのだ。
俺は一瞬でさおりんを手放す決意を固めた。俺一人の妄想で生まれたさおりんなど、足元にも及ばなかったからだ
大西は何で抵抗したんだろう。こんな美女になら生気を吸い取られても悔いはなかっただろうに。
「座ってもいいかしら?」
「どうぞ」
雪女はテーブルをはさんで、僕の向かいに腰を下ろした。
「あの。お返しします」
俺はさおりんを差し出した
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