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「素直で大変よろしいわ」
雪女は右側のトレンチコートをまくった。手首が欠けていた。
「春まで手首がないままだと、不便だもの。おいで」
さおりんはテーブルの上をちょこちょことかけていき、手首の断片に抱きついた。するとさおりんの姿が一瞬で変形し、美しい右手が現れた。
さようなら、さおりん。
「もしも俺がさおりんを隠し続けたら、どうなってたんですか」
「来年は手首分サイズダウンした雪女が生まれるわね」
「じゃあ、大西の結晶論は正しかったんですね」
「ええ。いい勘をしてる。カイロで反撃されるなんて思いもしなかった。面白い人ね」
「とり殺すつもりですか、俺と、大西と」
「まさか。あんなの300年も前の話よ。今は、夏の間にまんべんなくいろんな人からちょっとずついただくスタイルに変更したの。そっちのほうが、時間はかかるけどいい形に仕上がるから。怪異の世界もアップデートしてるの。でも、ちょっとは思い知ってもらってもいいかしらね」
俺は思わず椅子から立ちあがった。
「あはは。ウソよ、ウソ。彼、だいぶ弱っちゃってるけどけあたしのせいじゃないから。生気を吸われたのと、大好きなユキちゃんを失う悲しみね。後で慰めてあげてね。彼、このかけらにユキちゃんって名前つけてたの。安直だと思わない」
「昔からあほなんです」
「そうみたいね。かわいいアホだわ」
笑う姿も実に美しい。ダメもとで引き留めてみようか。
「あの・・・何か飲みませんか」
「え? だめよ。あったかいものを飲ませて融けさせようとしてるんでしょ。500年くらい前に騙されて風呂に入れられたことがあったけど、あたしもちゃんと学習してるの」
「いや、そうじゃなくて」
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