おそろいのスニーカー

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開け放した窓から入る風はひんやりとして、汗まみれの肌を冷やす。ふたりで一枚の毛布をわけあう。俺は腹ばいに寝そべりながら勉強をしていた。律はそのとなりで静かに眠っている。 「ふみお…?」 もぞもぞとうごめく気配がしたから、手をにぎって「ここにいるよ」と伝えた。 「起きたか?」 じいちゃんたちが、律あるいは坂本たちがいるとわかっていて二階の俺の部屋に来ることはまずないが、それでもそろそろ後始末をして服を着た方がよさそうだ。両親や兄弟が帰って来る。 律は手をつないだまま、体を寄せてくる。肩に額をつけた。 「史緒を、もっと好きになってもいいの…?」 言葉というより、吐息そのものみたいだった。俺の肌に一文字ずつふれてはすぐ消えた。 「へっ…?」 シャーペンをとり落としそうになる。寝言か?  「な…なに?」 律は、はっとした顔をした。 「なんでも…ない! 忘れろ」 俺の腕で顔を隠してしまう。 「この…ひとりで完結するな!」 律の肩をつかんで仰向きにさせようとすると、抵抗する。 「ひとりごとだ!」 男子高校生がふたり、もみ合うからベッドがぎしぎしと色気もへったくれもなく悲鳴を上げる。 「もっかい言え!」 「言わない…!」 「お前なあ…、」 やっとの思いで、細いけど意外と力のある体を組み敷いた。 「俺は、とっくに…知り合ったときよりずっと律を、もっと好きになってんだよ! おぼえとけ!」 ぴたりと動きが止まって、きょとんとした顔になる。 「ふみ…」 「あーもう…言わすな!」 気まずくてこそばゆい沈黙がおちる。互いに照れ、互いに今言った言葉と、聞いた言葉をかみしめている。 それでもふれあって、重なり合った体は温度も汗も正しく伝える。 「…もっかい、する?」 律の頰を不器用に撫でた。 「あ…ああ」 もじもじと微笑む律。なにやってんだろうな、俺たち。 そっとキスした。まだ少しだけ時間はある。
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