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窓につながる屋根も、田んぼも、白く覆われている。昨日の夜半から降り出した。
ゴムの口をひねって結ぶ。念のため二重に。その上でティッシュにくるんで、さらにビニール袋に入れて密封する。明日の朝集積所に出す、自治体指定のごみ袋にまぎれこませるつもりだ。
夜にはみ出した律の裸は妙だった。深い紺色の中に、ぼおっと輪郭がにじんで浮かび上がる。雪と同じように白くて、でも、まったく違う種類の白さ。律の方が、丸みをおびた柔らかい白。背中からかぶった毛布で律をくるんで、室内にひきこんだ。
「史緒」
背中から抱く。火照った体温が、汗がまだ残った肌がしっとりと吸いつく。はなしたくない。というより、はなれられない、と唐突に強く感じる。
「今日、泊まってけば」
「坂本くんたちは?」
「あいつらは勝手に帰るだろ」
雪だから親がスタッドレスタイヤに履き替えた車で迎えに来るだろう。律のことは連れて行ってほしくない。帰したくない。
「律の親、東京の人だから雪道の運転、慣れてなさそうじゃん?」
この台詞はそれなりに効果があったようで、律は、ふむ、とつぶやいた。
「…親に電話して聞いてみる。でもそうなったら勉強するからな」
それなら史緒といる甲斐があるというものだ、なんて生真面目に言う。
「げー、まじかよ」
「あたりまえだろう。入試まであと一年足らずなのに、史緒には危機感がまるでない」
「ききかーん? 音ゲーやって遊ぼうぜ」
「離せっ」
毛布の中で、しばらくじゃれあう。からみあう腕や足や吐息の親密さ。
「…服、着るか」
「そうだな」
「そしたら外、行ってみるか?」
雪の降る音が聞こえるかも、とささやいた。
「行く」
即答する潔さも、とても好きだった。
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