213人が本棚に入れています
本棚に追加
マフラーをぐるぐる巻きにしてやる。耳当てに手袋。スノーブーツ。弟や親父の物までかき集めて着けさせた。
「史緒ぉ、過保護」
と兄が笑った。うるせ、と言い返す。
「雪なんてどこがめずらしいだか」
じいちゃんはあきれて、それでも律のために雪を掻いて道を作ってくれた。
「ありがとうございます」
ひえた空気の中に、一点ほのかに灯りがともったような微笑みを向ける。じいちゃんにすら嫉妬しかけて、俺は律の手を取った。ついでにちゃなこも抱っこした。
「気ぃつけてな」
そのさまを見て弟の友達は「王子だ、王子」ってひそひそ盛り上がっている。そうだろ、俺の律は王子様みたいにきれいだろ?
縁側から裏庭を通り、田んぼまで下りる。ぎゅむ、と雪を踏みしめる感触。雪だ、と言う律の横顔の上気した頰。
田んぼは一面の雪野原に変わっている。ここなら律も自由に動き回れるだろう。ちゃなこが除雪車のように雪を割って走って行くと、律がそれをゆるゆると追いかけていく。
さっき少しだけ出た話を思い出す。
来年の今頃は受験まっただ中だ。そして、その結果がどうであろうと俺たちは高校を卒業する。
正直、まだなんの実感もなくて、今この時が永遠に続きそうな気がしている。学校で友達とだべってバスケをして、律と自転車で帰る日々が。
「さらさらしてる」
律はしゃがみ込んで、雪をすくっては振りまく。
無邪気な瞳に雪が映って銀色に揺れる。てのひらの雪がこぼれて、光がないのにきらきらときらめいた。
胸の中にも思いが降りつもって、とめどない。
最初のコメントを投稿しよう!