キス

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マフラーをぐるぐる巻きにしてやる。耳当てに手袋。スノーブーツ。弟や親父の物までかき集めて着けさせた。 「史緒ぉ、過保護」 と兄が笑った。うるせ、と言い返す。 「雪なんてどこがめずらしいだか」 じいちゃんはあきれて、それでも律のために雪を掻いて道を作ってくれた。 「ありがとうございます」 ひえた空気の中に、一点ほのかに灯りがともったような微笑みを向ける。じいちゃんにすら嫉妬しかけて、俺は律の手を取った。ついでにちゃなこも抱っこした。 「気ぃつけてな」 そのさまを見て弟の友達は「王子だ、王子」ってひそひそ盛り上がっている。そうだろ、俺の律は王子様みたいにきれいだろ? 縁側から裏庭を通り、田んぼまで下りる。ぎゅむ、と雪を踏みしめる感触。雪だ、と言う律の横顔の上気した頰。 田んぼは一面の雪野原に変わっている。ここなら律も自由に動き回れるだろう。ちゃなこが除雪車のように雪を割って走って行くと、律がそれをゆるゆると追いかけていく。 さっき少しだけ出た話を思い出す。 来年の今頃は受験まっただ中だ。そして、その結果がどうであろうと俺たちは高校を卒業する。 正直、まだなんの実感もなくて、今この時が永遠に続きそうな気がしている。学校で友達とだべってバスケをして、律と自転車で帰る日々が。 「さらさらしてる」 律はしゃがみ込んで、雪をすくっては振りまく。 無邪気な瞳に雪が映って銀色に揺れる。てのひらの雪がこぼれて、光がないのにきらきらときらめいた。 胸の中にも思いが降りつもって、とめどない。
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