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「史緒、これに目鼻をつけてくれ。木の実とか…、」
いつのまにか、小さな雪だるまをこしらえている。
「…律!」
なくしたくない。なくせない。抱きしめるたびに、手をつなぐたびに感じる気持ち。
「どうした?」
マフラーに半ば埋もれたちいさな白い顔。風景を映して色彩が折り重なったきれいな瞳。黒い髪。賢くてプライドがおそろしく高い外側と、柔らかくおだやかで、笑ったり泣いたりもする内側。好き過ぎてどうにかなりそうだ。
「律」
「なんだ」
「律を俺に、くれ!」
口にする直前まで、自分がなにを言いたいのかわからなかった。でも言った瞬間に、自分の気持ちがはっきりわかった。律はすべての動きを止めて、息すら止まったような顔をする。ちゃなこがわんわん吠えながらぐるぐる回る。雪だるまが、手の上からぽとりと落ちた。
「律のぜんぶ、くれ!」
雪が、丸いつやつやした頭のてっぺんや睫毛にかかる。それを払おうともしない。
「ぜんぶって…」
律はかぼそくつぶやいて、もじ、と手を擦り合わせた。指が冷えちまう、と思った。
「…もう、あげてるよ。わかってるだろ…?」
消え入りそうな声。それはわかってる。でも。今この瞬間だけでは、これまでの時間だけでは足りなかった。俺はわがままでよくばりで勝手だ。
「これからも、この先も。ずーっと! 東京の大学に行っても。もし俺が受からなくて地元に残ることになっても」
「史緒」
「…そうならないように頑張るけど」
律はともかく、俺は死にものぐるいで頑張らないとだめだけど。
「いつかシューショクしても、年取ってじじいになっても。とにかくずっと、ずーっと!」
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