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epilogue
「恩田せんせーい!」
ビルとビルの狭間、名実ともに東京のど真ん中だ。フェンスに囲まれたせまいアスファルトの校庭。そのラインは、視力が弱い子どもでも見やすいように緑の地に白色で引いてある。校舎は外見は古いが内部は数年をかけて改築されており、廊下には手すり、壁の角にはウォールクッションが設置され、足元には点字ブロックが敷いてある。
「おお、どした?」
振り向いたら、おさげ髪の小さな女の子が立っていた。俺が担任している五年生のクラスの生徒だ。彼女の使う言葉は口話もあるが主に手話。
“先生、もう帰るの? クラブは?”
手指がすばやく動く。
“今日はバスケットボールクラブ、お休みだから、先生は職員室のお仕事が終わったら帰るよ”
インクルーシブ教育を掲げる公立の小学校。心身に不自由のある子どもたちを受け入れている。その生徒たちは適宜、別教室で発達に応じた内容の授業を受けることはあるが、基本的には健常者と同じクラスで過ごす。土地柄、帰国子女や外国人も多いし車椅子の生徒もいる。
公立でも、校長の裁量でここまでできるんだというのが大学の実習の一環で見学に来たときの第一印象だった。でこぼこで、カラフルな学校。それで俺は、大学在学中にさまざまな資格を取った上で公務員試験を受け、新卒で採用された。
“用事があるの? うれしそうな顔してる”
鋭いね。
“なーんだ?”
うーん、と首をひねってから、
“どうぶつえん?”
ひねり出してくる答えがかわいい。つい顔がほころぶ。
“デートだよ”
目と口をまん丸くする。
“すきなひと、いるの?”
“いるよ。きれいで、かっこよくて、かしこい男の人”
今日は、ひさしぶりにそいつに会いに行く。
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