epilogue

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「長野には帰ってるか?」 「五月の連休も帰らなかったから…年末に顔出したきりかな」 「坂本くんたち、元気かな」 今日の律は回想モードのようだった。 「あいつらのことだから、元気だろ」 坂本は高崎で就職した。岡田は千葉県に住み都内の職場に通っているから、たまに会って飲む。趣味を通じて知り合った彼女と近々式を挙げる予定で、その暁には律と俺を招待してくれるという。初カノと結婚までこぎつけたことをひやかしたら、お前らも似たようなもんだろと言われた。そのとおりだった。 曾祖母は俺の高校卒業を待たずに亡くなった。柏崎に行った翌年の初夏に体調をくずし、夏の終わりにいってしまった。そして大学在学中に祖父も。ちゃなこも、犬なりの寿命をまっとうした。 律はどちらのときも通夜にかけつけてくれて、そばにいてくれた。ちゃなこのことも、最後に撫でてくれた。 そうやって、俺の家族のかたちはこの十年でだいぶ変わった。祖母はあちこちが痛いと言い、だいぶ体は小さくなったもののとりあえず元気でいる。兄貴は結婚していて、もうすぐふたりめの子供が生まれる。上の子に続き、男の子だそうだ。男が生まれやすい家系なのかもしれない。兄夫婦は実家で同居し、あのぼろ家もついにリフォームされた。律と何度となくセックスをしたあの部屋も畳敷きではなくフローリングになり、おもちゃだらけの子ども部屋に変わった。 ずいぶん、遠くまで来た。でも、いつも律がそばにいた。俺も律に寄り添うことができていただろうか。そうだったらいいと思う。
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