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「律へ。いつもいっしょにいて、すごく楽しいです…来年も、再来年もその次もずっと…なにこれ、はずかしいんだけど」
「だめ。読んで」
「罰ゲームかよ…ずっと、夏の色を、いっしょに確かめて、パレットの色を増やしていこう。史緒」
俺、こんなこと書いたっけか? 書いたんだろうな。
「再来年もその次」もとうに過ぎた。じゃ、俺たちは今、「ずっと」の地点にいるのだろうか?
「こんな紙切れを十年間って…相当だぜ」
点がすり減っているのは経年劣化だけではなく、律が指で何度も何度もたどったせいもあるのだろう。大変な時期にも、辛いときも。そう思うと、悲しいんじゃないのに泣きそうになる。
律を見ると、頬づえをついて幸福そうに笑っている。手を伸ばして、右のまぶたにキスする。あのとき校門のそばで、俺はきっと一目で魅入られた。いっしょに体験したすべての季節が重ねられた色をした、瞳。左のまぶたにもそっと唇をつける。とてもたいせつで、誰にも見せたくない宝物を閉じ込めているような気持ちになる。
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