目、見えねーの?

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正門脇の駐輪場から昇降口までたらたらと歩いて行く。俺はふたりの少し前を、くだらないことをだべりながら後ろ向きで歩いていた。 とん、と背中になにかがふれた感覚。それから、軽いものがアスファルトに投げ出された音。 「あ、ごめん」 柔らかい感触だったから、それが人だってわかったんだと思う。俺は反射的に言った。ただし、口先だけで。自分のことを棚に上げて、人混みでもあるまいしぶつかるなんてどんだけとろいんだよって思いながら。 「あ…やばいぜ」 坂本が口に手をやった。それから岡田が黒縁めがねのフレームを神経質そうに上げ下げした。 ん、なんかやばいやつ? うちの高校、あんまりそういうのいなくない? 学校をシメるヤンキーとか他校にまで名前が知れ渡ってる不良の類い。 とは思いつつも、少しどきどきしながら振り返った。 人が、座ってた。学校の敷地だから当然だけど同じ高校生で同じ制服を着ている。男。尻をぺたんとついて足を折った、いわゆるおねえさん座り。 「ほら、となりの…」 「となりのクラス?」 あそこ、と言って坂本は校庭の向こう側をあごで示した。 「あそこって…」 三階建ての灰色の校舎。入学して丸一年が過ぎたが、一歩も足を踏み入れたことはなかった。俺たちの教室がある本校舎と同じような佇まいで、特に変わったところはない。塀などで区切られているわけではなかった。にもかかわらず、一歩たりとも。 座り込んでいる男の傍らには、長さ(いち)メートルほどの細長い棒のようなものが転がっている。さっき音を立てて落ちたのはこれだろう。 「目ぇ、みえねーの?」 「ばか、おまっ…」 「ごめんねー、こいつ、ばかだから!」 坂本たちがあわてたように声を上げた。 愛想笑いで坂本が拾い上げて差し出したのは、白い…杖? 俺たちの高校と同じ敷地内に建つ、なにやら福祉系の学校というくらいの意識しかなかった。横目でながめながら、毎日学校に通っていたはずだ。 でも、ただそれだけ。自分とは違う、関係ないって思っていた。関係ない世界だ、って。
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