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コンビニに先客はいなかった。
メロンパンとコーヒーを買って、出入り口近くに設けられたイートインスペースに座る。目の前の窓ガラスには、寝不足の顔がはっきりと映っていた。
パンを食べ終わり、携帯を触りながらコーヒーを啜っていると、自動ドアが開く音がした。そこにはスーツケースを引いた若い女性の姿があった。少し前に窓の向こうをバスが走るのが見えたので、きっと目的は同じだろう。
憶測通り、女性は会計を済ませたあと、僕の背後を通って奥の席へ向かおうとした。スーツケースが僕の座る椅子にぶつかり、大きな音が鳴った。「すみません」と謝る彼女に、顔を上げて「いえ」と答える。彼女はもう一度軽く頭を下げてから背中を向けたが、すぐにまた振り返って僕を見た。
「浅井?」
その声と大きな瞳が、僕の海馬を刺激した。
「長瀬……」
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