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意外なるものがそこにあった。
「おい、見てみろよヒロト」
「何これ……タクヤ知ってる?」
「全然分からん。こんな貝初めてだ」
初夏の日差しが射し込む磯で彼らが見つめる先には、不思議な二枚貝が存在していた。
黒光りする細長い貝殻。ただそれだけなら、何らかの貝なのだと気にも留めないだろう。彼らが不思議に思ったのは、その貝殻に丸い模様と縦長の出っ張りが付いていたことだ。
ヒロトはその部分をじろじろと眺める。
「なんか出っ張ってるね、ここ」
「な、変わった貝だよな。見た目はアレに似てるけど。ほらあの……お洒落な料理に入ってるやつ」
「ああ、えっと確か……ムール貝だっけ?」
「そうそれ! よく知ってるな」
頭のもやもやが晴れ、爽やかな笑顔でタクヤは指を鳴らした。
「前に家族で行った店で出たんだ。おいしかったよ」
褒められたヒロトは嬉しそうに言う。
「ふーん。それにしても、なーんか作りもんっぽい貝だな」
「ね。本物じゃなくて、そういうフィギュアなんじゃないの? ガチャガチャみたいな」
「かもしれないよなー。めっちゃ軽いしこれ。触った感じは本物っぽいけど」
タクヤは、貝を右手で何度か軽く宙に放り上げる。手のひらにぶつかった音も小さく、重量感を感じさせない。少なくとも、中身は詰まっていないようだ。
「ちょっと見せてくれる?」
「おう」
ヒロトは渡された貝を調べてみる。このあからさまな部分が気になってしまう。何かの形に似ているような……そう思った瞬間、はっと思い当たった。そうだ、家の扉の鍵がこのような形をしていたはずだ。
その出っ張りをつまんで、手首を捻ってみる。
すると、つまんでいる部分がするりと回転した。
「あっ」
「動いたっ」
ふたりの声が重なった瞬間、回し終えた手応えと共に貝殻が開いた。
そうして生まれた小さな隙間に、少年たちの身体はちゅるりと吸い込まれる。
何が起こったのかも分からないまま、彼らは不思議な空間の中に移動していた。
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