ルーム貝

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 その日、ヒロトとタクヤはルーム貝の中で宿題に取り組んでいた。自分の部屋よりも、こうして秘密基地で一緒にする方がやる気になれるのだ。 「うーん、分からんっ」  タクヤは算数の宿題を前に、勢いよく顔を上げる。 「数字が大きいと考えにくいから、ひとつ小さい単位で考えるといいよ」 「あー、0を足す感じ? 確かに、そうするとやりやすいかも」  タクヤはあれこれ頭を悩ませながら、少しずつ問題を解いていく。その様子を見てヒロトは焦っていた。タクヤは勉強が苦手なはずなのに、少しの指導でもうにし始めている。純粋に要領がいいのだ。  そんなタクヤの姿を見るのがつらかった。  タクヤは格好よくて、頼りになって、どこでもやっていけて。一緒にいればいるほど、その輝きがヒロトの目を眩ませ、側にいるのが苦しくなる。  解き方を教えているくせに、これ以上解かないでくれと思ってしまう自分がいる。彼の鉛筆が途中で止まることを強く期待してしまう。  こればかりはもう、どうしようもないのだ。  勉強でさえ負けてしまったら、タクヤに勝てる部分なんて、もう何もなくなってしまうのだから。 「やっぱヒロトってすごいな! 俺ひとりだと全然分かんないもん」  その言葉を受けた瞬間、ヒロトの腹の底にあった熱がすっと消えた。 「……いやー、そんなことないよ」  僕、何考えてたんだろう。  先ほどまでを思い出し、ヒロトは反省する。不要なことを考えていたのは自分だけだ。タクヤはヒロトを真っ直ぐな目で見てくれる。どっちが優れているだとか、そんなことは関係ない。ただ一緒に遊んでいて楽しい。側にいる理由なんて、それだけで充分ではないか。  そうだ、タクヤは僕の大切な友達だ。 「よーし、終わった!」 「僕も!」 「もう遊んでいいよな? 今日はテニスボール持ってきたんだ」  ふたりは距離を取り、テニスボールでキャッチボールを始める。 「うわっ、とと」  ヒロトは飛んできたボールを取り損ない、慌ててそれを拾い上げる。  嫌なこと考えてごめんね。  少年はそんな思いを込め、親友に向けてふわりとそれを投げ返した。
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