ルーム貝

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 夏の全盛を迎えた頃には、ふたりの秘密基地はすっかり完成していた。  緑のレジャーシートが広がり、段ボールを積み重ねて作った本棚、アラーム付きの目覚まし時計、クッションに折りたたみ椅子。テーブルは四つの段ボールをガムテープで合わせ、より大きなものとなっている。フルーツの缶詰に乾パン、ジュースにポテトチップス。  ありとあらゆるものを詰め込んだ、少年たちの隠れ家。もはやそこは、自分の部屋よりも居心地がよくなっていた。  朝からルーム貝にやってきたふたりは、ごろりとレジャーシートに寝転がる。 「なーヒロト」 「んー?」 「最近、ルーム貝でかくなってない?」 「あ、やっぱり?」  少し前から、ヒロトもそう思っていた。最初はキャラメル箱ほどの大きさだったのだが、最近明らかに大きくなっている。およそ十センチといったところだろうか。 「もしかしたら、この貝も成長してるのかもね」 「ははっ、殻だけなのにどうやってだよ」 「まあ、そうだよねえ」  そんな話をしていると、タクヤはニヤニヤと笑う。 「ところでさ、今日はとっておきのものがあるんだ」 「とっておき?」 「ふっふっふ。じゃーん」  もったいぶるタクヤは、持ってきたリュックの中からゲーム機を取りだした。続いて出てきたのは、最新作のゲームソフト。ヒロトたちのクラスで大人気になっているゲームの最新作だった。発売日はあと三日後で、みんな楽しみにしていたのだ。  それを見た瞬間、ヒロトは目を輝かせて叫ぶ。 「えーっ! どうしたのそれっ! まだ店に並んでないのに!」 「へへっ、親戚がツテでゲットしてくれたんだ」 「わあ、いいなー!」 「ふたりで進めようぜ!」  タクヤの隣に座り、ヒロトは画面を覗き込む。  それから彼らは、夢中になってストーリーを進めた。ここに立ち寄った方がいいんじゃないか、ボスをどうやって攻略すればいいか。ふたりであれこれ考えながら、キャラを操作する。 「……あっ」  その時、バッテリーの表示が現れた。どうやら三時間ほどぶっ通しでやっていたらしい。新しいゲームは本当に楽しく、時間などすっかり忘れてしまっていた。
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