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「もう一回やるぞ!」
縋るように出っ張りを握るが、決してそれが動くことはない。
言葉を失い、彼らは青ざめた顔で目を合わせる。
――閉じ込められた。
その思考が脳を支配した瞬間、押さえ込んでいた恐怖が爆発する。
「あ、ああっ……嘘だろおい!」
「なんで? なんで動かないの!? 今までずっと動いてたじゃん!」
やけくそになって蹴ってみても、現状は何も変わらない。
外に出られなくなったと知った瞬間、大切な居場所は自分たちを閉じ込める不快な場所へと変貌する。せっせと物を運んで作り上げた空間が、こうも悍ましく感じられるとは。
一刻も早くここから出たい。そんな焦燥感に掻き立てられながら、ふたりは必死に喚く。
「開けて! 誰か開けて!」
「助けて! いるよここに! ねえっ!」
死に物狂いで壁を叩いても、その声が誰かの耳に届くことはない。
ついに恐怖に耐えかね、ヒロトは泣き始めた。その不安が伝染し、タクヤも嗚咽を上げる。
なんで、急に開かなくなったんだ。
この理不尽に怒りを抱いていると、ふと兄の言葉を思い出した。
『子供の頃って、なんか大丈夫! って思っちゃうんだよな』
そうだ。こんな訳の分からないものに、関わりを持ってはいけなかったのだ。
ルーム貝はきっと大丈夫。そんな甘い考えをしていたから、今こんなことになっているのだ。
開けた者を吸い込む貝。中身が入っていないから、これは生物ではなく不思議な道具。だから襲ったりしてこない。そんなことを考えていた。
これが生物にせよ物体にせよ、少なくとも人間の持つ常識など存在しない。利用するたびに寿命が吸い取られているかもしれないし、鍵がいつまでも開く保障はない。
こんなもの、最初から関わるべきではなかったのだ。
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