ルーム貝

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「……外だ」  広い空を見上げ、タクヤはそう呟く。  夢でも見ているのかと頬をつねってから、再び大粒の涙を流した。 「外だっ!」  はてしない安堵を噛みしめながら、タクヤは顔をほころばせる。理由はよく分からないが、とにかくあの牢獄から脱出することができたのだ。  タクヤは砂の上でうずくまるヒロトを一瞥する。  一瞬手を差し出そうとしたが、やがて鼻を鳴らして去っていった。  ヒロトの情緒はぐちゃぐちゃになっていた。  親友と絶交してしまった悲しみ、外に出られた喜び、喧嘩に負けた屈辱。脳内のそれはもはや言葉にできず、獣のような唸り声を上げながら、足元の砂を親の敵のように握りしめる。  数分後、ゆっくりとヒロトは立ち上がった。そろそろ帰ろう。そう思った瞬間、リュックを中に忘れてしまったことに気が付く。すぐに戻るつもりだったから、背負わずに置いてきてしまったのだ。 「どうしよう……」  あの中には家の鍵やスマートフォンなど、大事なものが入っている。なくしたと言えば、間違いなく怒られてしまうだろう。  それにこの怪我だ。何があったのか追及されるに違いない。もしかしたら、ルーム貝のことを話さなければいけないかもしれない。もうこれ以上面倒事は避けたかった。  ヒロトはルーム貝に視線を向ける。  さっきはタクヤひとりでも鍵を開けられた。だったらきっと大丈夫。そう自分に言い聞かせる。  あいつにできたんだから、僕にだって。  対抗心を静かに燃やしながら、ヒロトは再びルーム貝の鍵を開けた。
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