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秘密基地の光景がヒロトの目に映る。
不愉快な場所だ。鮮度が落ちていない嫌な思い出は、腹の底をむかむかとさせた。こんなところに長居したくはない。さっさと用を済ませてしまおう。
静かな室内を歩くと、腕に鳥肌が立っていた。いつもここに来るのはふたりだった。ひとりだけでいると、静けさがどうにも不気味に感じる。誰もいないからこそ物音が際立つ。
自分以外の音が鳴らないか、ヒロトは身構えていた。突然、お化けが出てきて迫ってきたら。そんな想像をして背筋が冷えていく。
リュックを手早く確保し、早足で歩く。いつまでもここにいると、気がどうにかなってしまいそうだ。理性が恐怖を押さえ込んでいるうちに戻りたい。
そして、扉の前に立つ。
「ふー……」
ここが運命の分かれ目だ。出っ張りを両手で掴む。
あいつにできたんだから、僕にだって。
敵対心を燃やし、力を込める。
ズズ……。
嫌な予感は外れ、無事に鍵は動き出した。
よかった、これで大丈夫。
ヒロトは安らかな気持ちになる。
その安心が、彼に新たな欲を抱く余裕を与えた。
「あっ」
ヒロトは秘密基地を眺めた。この場所には、ふたりで持ち込んだものが残っている。
今なら、全部独り占めできる。
そう考えると、不思議な熱が腹の底からせり上がってきた。
奥へと戻り、タクヤのリュックを漁る。そこには、ヒロトが欲しくてやまないものがあった。まだ誰も持っていない、楽しい楽しい新作のゲーム。
もちろん、人のものを盗むのはよくない。それに、もし家族に見つかってしまえば、どうやってこれを手に入れたのか言及されてしまうだろう。
でも、どうせもうあいつはここに戻ってこない。今日を最後にこのゲームは捨てられてしまう。だから、少しだけ遊んでもいいはずだ。
大丈夫、ちょっとだけ。
ヒロトは背徳感に興奮しながら電源を点ける。
憧れの世界が広がり、すぐにヒロトは夢中になってゲームを進め出す。
楽しい、楽しい……。
秘密基地の中に、電子機器のボタンの音だけがカチカチと響いていた。
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