ルーム貝

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 磯をひとりの大学生が歩いていた。  サークルの友人たちとバーベキューに来たのだが、なかなか火起こしが上手くいかない。まだ今しばらくかかりそうなので、得意な者に任せて彼は辺りを歩いていた。  仲間たちに何か持って帰りたいものだ。ぼんやりと彼は浅瀬に目を向ける。小魚が何匹か泳いでいるのが見えたが、さすがに捕まえられそうにない。ちなみに漁業権という概念を彼は知らなかった。 「ウニとかいねえかなあ~」  海水を見渡しながら、ぼんやりと呟く。一匹のアメフラシが手の届く範囲にいたが、さすがの彼でも持って帰ろうとは思わなかった。焼いたらウケるかもしれないが、後処理のことを考えるとさすがに尻込みする。  ぷらりと歩いていると、ついに磯の端まで来てしまった。それでもまだ続いているようなので、足元の小さな岩を辿っていく。 「へえ!」  突き当たりを曲がると、そこには小さな砂浜があった。予想外の発見に心が躍る。取り立てて何かがある訳ではないのだが、彼は喜んだ。  ここまで歩いてこないと、この砂浜の存在を知ることはできないだろう。秘密の場所を見つけてしまったようだ。あとで仲間たちにも教えてあげよう。  だが、よく見ると砂浜にいくつか足跡があった。靴の大きさからして地元の小学生だろうか。  その足跡を追っていると、ふとあるものに目がいった。岩の近くに落ちている、黒光りする二枚貝。それなりに大きい。表面に変わった出っ張りが付いている。
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