ルーム貝

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「あ……」  ヒロトは目をぱちくりとさせる。  さざ波の音に潮風の感触、この清々しい開放感。 「戻れた……戻れたぞっ!」 「は~……怖かったあ」  ヒロトは密室から解放された安堵感に胸をなで下ろした。突然のことに混乱したが、何とか脱出に成功したらしい。 「それにしても、何なんだろうな?」  足元にはあの貝が落ちている。タクヤがそれを拾って確かめると、貝殻はきっちりと閉じていた。出っ張りの形も縦に戻っている。 「この出っ張り、扉の鍵みたいだよね。回して開けたらこの中に入ったんだ、多分」  ヒロトが仕組みを分析していると、タクヤは興奮して大声を出す。 「すげえっ! やばくないかヒロト? もしかして俺たち、とんでもないものを拾ったのかもしれないぜ!?」 「うん、魔法の道具みたいだよね!」 「ルームって部屋って意味だったよな? よし、こいつをルーム貝と名付けよう」 「あはは、ムール貝みたいだからルーム貝ね? いいかも」  彼らは偶然見つけた宝物に大はしゃぎする。  現在科学では解明できない、摩訶不思議な貝。  少年たちは、これをルーム貝と名付けることにした。 「色々中に持ち込んでさ、秘密基地にしようぜ!」 「秘密基地……」  その言葉にヒロトは口角を持ち上げる。前々からそういうものに強い憧れを抱いていた。  秘密基地という言葉は知っていたが、昔と違って今ではそのように利用できる場所は少ない。読書が好きなヒロトは、いつか木の上にでもログハウスを建て、そういう居場所を作りたいと夢見ていたのだ。 「いいねそれ! うわ~っ、ワクワクしてきた」  タクヤは鼻息を鳴らしながら磯の端まで移動する。その突き当たりを横に曲がって岩場を伝っていくと、小さな砂浜がある。よほど歩いてこない限り、観光客はまず気付けない。地元の人間しか知らない場所だった。  そこにある岩のくぼみに、タクヤはそっとルーム貝を隠し入れる。 「よし、ルーム貝はここに隠しておこう。俺たちだけの秘密な」 「うん!」  彼らはそうして家に帰り出す。  その日、ヒロトはいつまでも興奮が冷めず、なかなか眠ることができなかった。
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