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「タクヤ君! 分かるかな?」
担任の目がタクヤの方へと向かう。助かった。張り詰めていた緊張がふっとほぐれていく。
「う~ん」
タクヤは腕組みをして問題を睨む。当てられてからすでに十秒が経過した。クラス中の視線が彼の方へと集中する。ヒロトはそれを感じてぞっとした。
「分かりません!」
屈託のない笑顔でタクヤは言った。担任はそれを聞いてこくりとうなずく。
「そっか、じゃあ一緒に考えてみよう。まずここの位を足すでしょ?」
「ほうほう」
その場で教えてもらいながら、タクヤは問題に取りかかる。そんな姿勢がヒロトには信じられなかった。自分なら間違いなく顔が真っ赤になって、黙りこくってしまうだろう。分からなくても堂々としながら、自分の意見を言えるタクヤが眩しかった。
「……あっ、13.4!」
「正解!」
そうして、タクヤは分からなかった問題を解いてしまった。
「ふい~、危なかったぜ」
算数の授業はそれからも進んでいく。その通常通り進むということがどれほどすごいことか、タクヤは分かっているのだろうか。ヒロトは友達の背を眺める。
ただ普通に答えた自分よりも、その場で解いたタクヤの答えの方が価値がある。担任の反応でそれを悟ってしまった。
やっぱり、タクヤはすごいや。
そんな尊敬を向けると同時に、心のどこかがもやりとした。
自然と鉛筆を持つ指に力が入り、数字の形が崩れてしまう。
どうして僕は、タクヤみたいになれないんだろう。
腹の奥から滲むその気持ちを、ヒロトは尊敬で塗り潰した。
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