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その日、ヒロトは生物図鑑を読んでいた。図鑑にはハゼとテッポウエビの共生関係が記載されている。
テッポウエビは大きなハサミで巣穴の手入れをし、同じ場所で暮らすハゼは、目が悪い相方の代わりに敵の来襲を伝える。時にはハゼが巣穴に藻類を運搬したり、テッポウエビがハゼの身体をクリーニングしたりするらしい。
面白い関係だ、とヒロトは思った。まったく別の種族なのに、お互い力を合わせて生きているなんて。
「ヒロト、最近本読んでなくない? 家で読んでるとこ見るの久しぶりだ」
リビングに来た兄が、そんなことを言ってきた。別に悪いことをしている訳ではないのだが、心臓がどきりとする。
もしかして、怪しまれているのだろうか。
「そうかもしれない」
「最近ずっと遊びに行ってるよな。タクヤ君と?」
「う、うん」
「何してんの?」
「別に……色々歩いて探検したりしてるよ」
「ふーん」
必死に狼狽しないよう努めながら、ごくりと唾をのむ。兄は自分の秘密に気が付いているのだろうか。
だが、その心配は杞憂だったようで、兄は笑った。
「いいじゃん。読書も大切だけどさ、やっぱ子供は外を走り回ってこそだよな」
「うん。ところで、何食べてんの?」
「ん? 友達がくれた土産。お前も食うか?」
「やった」
兄から渡された丸い饅頭を手に取る。焦げ目が付いていて香ばしそうだ。さっそくぱくりと食べてみた。その瞬間、予期せぬ味が広がる。
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