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娘は泣きながら戸があった開口部を潜り、正規の通路をとぼとぼと歩き始めた。
長い長い一本道だった。途中から泣き疲れたのか眠くなったのか、娘の足取りはフラフラになっていく。いつまでも続く同じ道は大人でも気が滅入る。
ようやく一本道が終わり広い空間へと出た。持っているランタンがあまり遠くを照らせないので娘には分からないだろうが、ここは円柱形の大きな立て坑だ。上から下まで階段が壁に沿って螺旋状に張り付いているので、一気に地上近くまで上ることができる。
娘が手すりとその先にある大穴に気がつく。穴の下から吹き上げる生暖かい不気味な風と変な臭いのせいか涙は引っ込んでしまったようだ。
上へ向かう階段と下に向かう階段、娘は交互にそれを照して迷うかのようにうろうろしている。うろついて小石をコツンと蹴り、転がった小石が大穴に落ちて、ポチャンと音を立てた。
娘がぴたりと動きを止めた。かと思ったら急に走りだり階段を駆け下りていった。気づかれてしまった。
立て坑の最深部は実はすぐ近くだった。そこには、かつて冒険者が訪れていた時代に賑わっていた天然の温泉がある。主に疲労回復、打ち身などに効果がある。
娘は唐突に靴を脱ぎ、靴下を脱ぎワンピースをたくし上げると温泉へと突っ込んでいった。高温の可能性や体を溶かす液体の可能性を考慮しろというのは幼子には酷だろうか。後で家族に話して、しこたま怒られて学べばいいのだが。
良い湯加減にすっかり機嫌が良くなった娘は、足湯では飽き足らず服まで脱いでしっかりと浸かり始めた。潜ったり泳いだりとやりたい放題だ。
モンスターのいないダンジョンだから良いものの、ダンジョン内で裸になったり一人なのに初めての場所でくつろいだり無防備にも程がある。そもそも濡れた体をどうするつもりなのか。ポシェットの中にハンカチが入っていたとしても、それ一枚で全身が拭けるだろうか? 濡れたまま歩き回りでもしたら風邪を引いてしまう。
……確か、上の方の階層にやたらと布がある部屋があった。小さい布なら運べるし、一応持ってきてやろう。
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